切れ味が悪くなった包丁を研ぐ。一昔前の日本では当たり前だったことだ
が、近年は砥石を置いている家庭も気軽に研ぎに応じてくれる店もなくな
ってしまった。清水刃物工業所は、そんな文化を復活させることに貢献し
ている。ただ売るのではなく、なぜ手間のかかるそんなサービスにこだわ
るのか。清水社長に愛知大学2年の松波さんがその理由を聞いてきました。
創業昭和27年の岐阜県関市の清水刃物工業所は目の前を通り過ぎてしまう
ほど小さな会社だが、社長さんからは刃物やお客さんへの愛情や情熱を感
じることができる会社だった。
現在の社長さんは2代目、社長になられてから44年目。全国的にも有名な
関の刃物の加工・販売をされている。一般的な家庭で使われる包丁はもち
ろんのこと、工事現場などで使われる皮スキという金属製のヘラや、ケー
キ屋さんがケーキのクリームを伸ばすために使うヘラなど、普段見ること
の無いようなものもある。そんな清水刃物工業所では業者向けの刃物と一
般向けとしてお店への卸しのほかに10年ほど前から始めたネットでの販売、
さらに海外展開向けの商品を扱っており常に新しい市場を追い求めて試行
錯誤している。
なぜここまで販売するためのマーケットが多様化したのかというと、昔は
金物屋さんで購入することができた刃物も、刃物=危険というイメージが
世間的についてしまい必然的に金物屋さんが町から姿を消した。そのため
現在では百貨店や大型スーパーの一角、ネットでしか刃物を購入すること
ができなくなったのである。
また、海外展開をする際も海外からOEMとして刃物事業を請け負うのでは
なく「関の刃物」「清水刃物工業所」だからここまでの商品を作ることが
できるという自信をもち、そのブランド力を武器に自社製品の販売展開を
進めている。
現在、一般向けに売り出している新商品として「トギノン」という包丁が
ある。包丁の刃は切っていくうちに削れて切れ味が悪くなる。刃を研げば
買い換えなくても新品同様の切れ味になるのにも関わらず、研ぐのが面倒、
研ぎ方がわからないという人が多く、刃こぼれするとそのまま捨てられて
しまう包丁がたくさんある。そこに目をつけ、柄から刃を簡単に取り外す
ことのできる包丁を開発し、刃を取り替えるだけで切れ味のよい包丁にな
るようにした。また中小企業ならではのサービスとして、切れ味が悪くな
った刃を郵送するための封筒と研ぎ直している間も使える替え刃が付いて
おり、清水刃物工業所へ郵送すれば有料ではあるが研ぎ直しをしてくれる。
「研ぎ直しは有料にも関わらず、トギノンを購入された方の中には毎月の
ように刃を送ってくださる方がたくさんいるんです」と、すごく嬉しそう
に話されていた社長からはトギノンを通じて一人一人のお客さまを大切に
したいという愛情がひしひしと伝わってきた。今は物が安くなりすぎて一
つのものを大切にしようとする気持ちが薄れている。包丁だって刃こぼれ
したら捨てて新しいものを100円均一で買える時代なのだ。しかし、そん
な世の中でもトギノンに愛着をもって使ってくださるお客さまがいる限り
どれだけ手間でもやり続けるべきなのだ。一つのものを大切にできるよう
になればゴミも減り環境にもやさしい。古臭い考え方のようで現代の私た
ちが忘れてしまっている大切にしなくてはいけない考え方のように思う。
「5年先、10年先を見たときはどうなっているかわからない。だが、何年
経ってもその時々で関わっていく人たちにどれだけ喜んでもらうことがで
きるか、それを大切にしていきたい」そう語られていた社長。これからも
関の刃物の良さを日本や海外に伝えるだけでなく、清水刃物工業所の「お
客さまに対する愛情」も伝えていっていただきたいと強く感じた。