かわいらしく、肌を傷つけない毛抜きとして注目を浴びている美容雑貨商
品「NOOK(ヌーク)」を製造販売しているミサト工業。本業の自動車部
品を作る際に培ってきた鍛造技術が応用されている。自動車部品の製造工
場と美容雑貨がどのように結びついたのか。愛知淑徳大学2年の川嶋くん
が川嶋社長の苦労と努力、そしてものづくりへの思いを感じてきました。
※鍛造(たんぞう)
しなやかさと強度を高めながら成形する金属加工の一種
リーマンショックが起こっても社員を誰もやめさせなかった。それどころ
か検品の分野ではアルバイトを正社員にするなど、とても社員思いの社長
であった。検品は現在ミサト工業の売り上げの5割を占める分野であるが、
その正確さは会社の信用を得ることにもつながった。検品を担当するのは
女性が多く、それは女性ならではの繊細さが活きている。ものづくりの技
術を向上するには働き続けてくれることが大切であるし、社員をやめさせ
ても元の状態まで戻すのに時間がかかると考え、休業補償を導入するなど
して手を打った。社長にとって社員は宝であり強みでもある。家族同然だ
と考えているのだ。
とはいっても、リーマンショックにより売り上げは30パーセントまで落
ち込み、このままでは後がないと考えていた。それでも製品の質は落とし
たくはなかった。その狭間で打開策を探っていたとき、社長は生き残りを
かけてセミナー等にも参加し、1年で1500枚ほどの名刺を配った。そ
のことが、売り上げの約13パーセントを占める毛抜き、「NOOK」の
今の売り上げへとつながっている。NOOKを作り始めた時は、ミサト工
業に営業をする部署はなかったが、現在では営業部ができている。驚くべ
きことは、NOOK開発の3か月後にはすでに量産体制に入ったことであ
る。技術力の高さがうかがえる。
「人とともに、地域とともに」が会社の理念であり、同時に会社のアピー
ルポイントでもある。そのために社内では、やりがいのある環境をつくる
ためにみんなで取り組みやルールを決める。製品を生み出す際にはお客さ
まが喜んでくれるものをつくろうと考えている。例えばNOOKは、毛抜
きの先端が丸くなっているために皮膚をつままないという、肌に優しい毛
抜きで、また鍛造技術によってしなやかな製品ができあがり、毛抜きのは
さむ力も上がるのである。
今後はミサト工業の強みを生かし、医療分野にも進出していくという。取
材をして、医療分野でもその人のニーズに合った思いやりのある製品が作
り上げられるのだろうと確信した。また新しく作ること、開拓していくこ
と、それをつないでいくこと、続けていくこと、そして人とのつながりの
大切さを実感し、社長のものづくりに対しての真摯な思いが伝わってきた。
ミサト工業から次の世代に普通に使われる、長期的に愛され続ける製品が
生まれていくのである。