鉄の中でも特に強度と粘り強さ(靭性)があるダクタイル鋳鉄や強靭鋳鉄
でガス管や自動車部品などを鋳造している高橋鋳造所。質の高い鋳物をス
ピーディーに作るには、気温や湿度の影響も考慮できる経験豊かな職人の
技術と、さまざまな要望に応えられる型屋とのつながりが必要となる。古
い時代から変わらぬ世界をつなぎ、鋳物業界を牽引する高橋社長の魅力に、
名古屋市立大学3年の原田さんが迫りました。
高橋鋳造所は岐阜県各務ケ原市にある昭和21年創業の鋳造所である。ダク
タイル鋳鉄および強靭鋳鉄を製造している。鋳造には不可欠な「型」。砂
型をつくり、そこへ熱した金属を流し込み成形するのだが、その砂型をつ
くるためのマスターの型が必要となる。
高橋鋳造所は創業以来、多品種小ロットの受注対応をしてきた。そのため
たくさんの“型屋さん”とのつながりを持っている。協力会社との幅広い
つながりは高橋鋳造所の強みの一つでもある。
型屋さんは小規模な会社も多い。きちんと経営が成り立っていくにはちゃ
んとした価格で仕事をおろさねばならない。しかしそこで自社が赤字にな
ってはいけない。当たり前だが、割の合わない仕事をしていては経営は行
き詰まる。そうならないために、川上の顧客によいものはきちんと適正な
価格で買っていただく必要があるのだ。そこで高橋鋳造所が顧客に対し価
格交渉ができるのは、高い品質で信頼を勝ち得ているからこそ。
しかしその信頼を勝ちとるにも粘り強い努力があってこそ。納期通りに不
良品なく品質基準を満たす品をおさめる。そういう「当たり前のこと」を
「長く」続けてきた結果なのだ。しかしその「当たり前のこと」はなかな
か難しい。不良品を出さないということはそれだけものづくりに真剣でな
ければならない。鋳物業界は別名“まごころ産業”。一つの製品を作るの
に工程が多くかかり、そのどこかで誰かが手を抜いてはたちまち不良品、
取り返すのに多大なコストがかかる損失となる。各工程で一人一人がいい
ものを作ろうと思って仕事をしないと、成り立たないのだ。だから高橋社
長は言う、「一人一人が意欲を持って働く場所をつくりたい」と。鋳物は
職人技が命。日々蓄積する経験や引き出しを会社がどれだけ持っているか
ということが重要な要素になる。だから社員には長く働いて欲しいと願い、
厳しくならざるを得ない労働環境の改善や、幹部の教育に熱心に取り組ん
でいる。
これから8年計画で工場の改装に取り組み、「日本一きれいな鋳物屋にす
る!」と意気込む社長は、とても頼もしく、カッコ良く見えた。
「『ご縁』という言葉が大好きなんですよ。」と語る高橋社長。多くの型
屋さんやお客さんを巻き込むチカラの強さはそのお人柄ゆえだろうか。
「うちだけではなく、協力会社さんたち含めてみ〜んなで”高橋鋳造所”
なんです。運命共同体、家族のようなものです。」という言葉が非常に心
に残っている。
鋳物だけでなく、機械加工、表面処理、熱処理、塗装などさまざまな業者
さんとタイアップしてグループ化を計画しているそうだ。大企業と違って、
資本力のなさを補うことが出来るうえ、中小零細企業にこそ製造する技術
力がある。それを高橋社長は自ら立派に証明してみせている。鋳物のよう
に強靭な社長の強い意思と、それを誠実に実行し続ける真摯な姿勢が高橋
鋳造所の強さの裏付けであり、一番の魅力だと私は感じた。