ネジで、うだつが上がる。この意味がすぐにわかる人は数多くはないであ
ろう。タカイコーポレーションは、うだつの上がる町並みで有名な美濃市
に工場を構え、特殊ネジを中心に3万アイテムを製造している企業だ。一
人ひとりの社員と同様、一つ一つのネジに愛情を注いで出荷している。一
社員の立場から、たたき上げで社長となった岩田社長に、岐阜大学2年の
久世くん、愛知大学3年の伊藤さんがたっぷりお話を聞いてきました。
「ネジ」と聞いてどのようなものを思い浮かべるだろうか。おそらくイス
や机についているネジを思い浮かべるだろう。私は、以前まで、そのよう
に「ネジ」というものをとらえていた。しかし、タカイコーポレーション
に訪問して「ネジ」に対する見方が変わった。
タカイコーポレーションは、岐阜県美濃市にある精密機械部品メーカーで
ある。およそ、特殊ネジを中心に3万種類の製品を扱っている。工場見学
では、特殊ネジの加工を見学した。最短2mmまでのネジやスプリングの入
ったネジといった、今まで見たことのないネジが作られていた。また、そ
れらのネジに対して軸の長さや頭の長さをミリ単位で調節するので、数え
きれないほどの種類があると言っても過言ではない。お客様の要望に応え
て調整していった結果、本当に多くの種類のネジを作っているのだと実感
した。
今の時代、大量生産大量消費が当たり前と思われている中、この会社は1
本や2本など少ない数の注文でも商品を生産し発送する。これを実現させ
ているのは、早くからITを導入することによって作られたタカイコーポレ
ーション独自のクラウドシステムのおかげだ。このシステムは注文を受け
取るとまず在庫を確認する。在庫があれば製品を梱包し発送するように指
示を出す。在庫がなければ製品を作るように工場に指示を出し、その後、
発送する。このシステムがあるからこそ少ない数の注文にも対応すること
ができている。また、タカイコーポレーションには1日に約700件もの
注文があり、それらのほとんどを3日以内に発送する。さらには、急ぎの
注文だと昼までに注文を受け、その日の夕方に発送することもできる。
このように、本当に多品種少量生産を実現しているのだ。
「多品種少量生産」。この言葉、日本のメーカーだったらどこもそう言っ
ている気がする。しかし少量と言っても本当の「1個から」というところ
は少ないだろう。
事務所の周りに立ち並ぶ、赤褐色にきれいに塗色された、いくつかの工場
を見学させてもらった。ネジ工場なだけに、鉄のような香り。そこで見た
のは、「2」と書かれた受注表。そんな1ケタの受注表がいたるところに
あった。本当の多品種少量生産である。働く人々は、私たちに「こんにち
は~」と優しく声をかけてくださった。素人じゃとても動かせないような
機械を巧みに動かすその姿は輝いて見えた。鉄の小さな塊が機械を通ると、
ネジになってでてくるのだ。すごい。米粒に紛れ込んでもわからないよう
な2㎜のネジまであった。このようなネジたちは、PM2:00までの受注で
当日出荷でき、納期率100%で世に出される。ネジたちはクラウド型のIT
システムにより、きっちりと行く先が決められているのだ。出荷作業では、
大小さまざまな箱が用意され、丁寧に丁寧にネジが梱包されていた。普段
何気なく見るネジ、いや、気づきもしないネジがこんなに多数の人の手で
作られているなんて驚いた。
工場を見学していると、「自転車開発室」という部屋があった。中には、
真剣に自転車を直す社員の方。タカイコーポレーションはネジのほかに自
転車も作っている。ただの自転車ではない。カーボン製だ。しかも、美濃
の頭文字「M」がモチーフになっているのだ!試乗させて頂いた。軽い。
とても軽い。自転車自体もペダルも軽かった。これならお年寄りの方でも
楽々こげそうだ。見た目もとても可愛らしく、もし製品化したら買いたい。
余談だが、試乗の際、これまでのチェーンに代わる試作中のベルトドライ
ブの調整が整っておらず、実は最初はうまくペダルをこげなかった。諦め
て他の見学に向かったが、再度調整し直した自転車を持ってこられた。楽
しげに自転車のことを話す社員の方も、工場内の方も皆、柔らかい優しい
雰囲気を持っていた。自転車の社員さんは私たちが試乗した後、颯爽とそ
の自転車に乗って戻っていった。本当に楽しそうだ。
タカイコーポレーションで役職があるのは、会長、社長、専務のみ。 現
社長の岩田さんも平社員から社長になった。同社が一番大事にしているの
は、「社員」だそうだ。社長の一番の役目は、社員がちゃんと生活できる
ようにすること。それが、会社全体に伝わっているのか、社内は優しくて
明るい雰囲気に包まれていた。
1つの注文から、大きな機械を動かし、出てくる小さなネジ。そしてそれ
を丁寧に梱包する。一人一人の社員が大事にされているから、社員の方々
も一つ一つのネジを丁寧に作り上げ、お客様にすばやく届けているのだ。