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江戸時代から続く、趣のある酒蔵・岩村醸造。
7代目の渡曾社長は、伝統を守りつつも、日本酒の新しい価値の提供に取り
組んでいます。
南山大学2年片岡さん、椙山女学園大学3年の天木さんが、そこに込めら
れた社長の想いをたっぷり取材してきました。

「お酒とはこういうものだ!という固定概念をなくしたい」。そう語るの
は、岩村醸造7代目の渡曾社長。アルコール飲料の消費者が、日本酒に限
らず全体的に減少傾向である近年において、これまでの売り方では、勝ち
残れないと渡曾社長は言う。江戸・天明時代創業の伝統ある酒蔵であると
いうことから、取材前はいかに伝統を守っていくかということ中心の話に
なると思っていたので、正直驚いた。「どうしたら、岩村醸造の日本酒が、
他の酒蔵のシェアを奪えるかを考えるのではなく、もっとシンプルに、ど
うしたらアルコール(日本酒)消費者が増えるのかを考えることが必要」
と語る渡曾社長を見ていると、これまでの日本酒に対する“古くて、手を
伸ばしづらい”というイメージが払拭された。

「これまで当たり前だと思っていた発想を変えることが、何より楽しい」
と言う渡曾社長の取材中、印象深い場面があった。取材は、中庭に面した
和室で行われたが、取材中何度か蚊が飛んでいたので、蚊取り線香を用意
して下さった。蚊取り線香は普通、地面と平行に置き、円の外側に火をつ
けるが、渡曾社長は地面と垂直に置き、加えて円の内側から火をつけて焚
いていた。気になったので、どうしてそんな焚き方をするのか尋ねると、
「蚊取り線香に付属のスタンドがなかったので、クリップで挟んで代用し
ただけ」とおっしゃっていた。何気なく始めたとのことだが、「困ったと
きに他の方法や手段がないか考えるのが好き」という、渡曾社長らしい発
想だと感じた。これも一種の発想の転換である。

では、具体的に日本酒をもっと普及させるために、どんな戦略を組み立て
ているのか。まず日本酒を海外に広め、その話題を日本に逆輸入するとい
う方法があり、2つ目にワイングラスで日本酒を楽しんでもらうといった
方法がある。日本酒は、おちょこで飲むのが一般的だが、日本酒本来の味
と香りのバランスを保つために、ワイングラスは有効で、また若者に馴染
みやすい商品スタイルの提案とも言える。伝統をつないでいくことは必要
だが、保守的になるのではなく、常に変革を続けることにこだわりを持っ
ているのだ。

常に様々なことにチャレンジし、変革を続ける岩村醸造であるが、次期の
岩村醸造を担う若者を欲しているという。学歴、スキル関係なく、「この
スキルを持っているのなら、ここを生かせる!」といった若者の長所を最
大限に生かし、先を見越した戦略を練っていきたいと渡曾社長は言う。も
うすでに持っているスキルや、コミュニケーション能力などが重視される
現代の就職活動において、個々のポテンシャルを第一に考え、採用を決め
ようとする渡曾社長の姿に感銘を受けた。

以上のように、岩村醸造は新しいことに挑戦し続けているが、その根底に
は、「“古さ”を残してこそ、価値が生まれる」という考えがある。革新
的なアイデアは、これまで培ってきた“古さ”を後世に残していくための
ひとつの手段であり、本来の目的は、岩村醸造を、そして日本酒をもっと
多くの人に好きになってもらうことにある。
今後も、伝統×新たなチャレンジを続ける岩村醸造から目が離せない!

“女城主”。岩村醸造の銘酒である。地元には岩村城というお城がある。
このお城は、織田信長の叔母にあたる人が、戦国時代唯一の女城主として
取り締まっていた。恵那が観光地として賑わい始めたのは、ほんの三十年
前のことである。岩村城八百年を機に観光の地にしようという市の試みに
より、少しずつ買い物客や、観光客の姿が見え始めたのである。安価のお
酒を多く売るのではなく、質の高いお酒づくりに力を入れてきた。近年十
年以上は、本醸造以上のお酒をつくり続けてきたのである。

お酒を売る相手は、酒販店と一般のお客様が半分ずつである。ここまで一
般のお客様の割合が多いことは、非常に珍しいことのようである。その理
由に関して渡曾社長は、立地条件の良さを挙げている。元々城下町であり、
町全体は(古さ)が目立つ印象であった。美しさの向上に、時代の流行も
手伝い、モダンな造りに建て替える店が増加した。しかし渡曾社長は、
「形をできるだけ変えることなく、古さを残してこそ、本当の意味での価
値が生まれる」という考えを持っていたため、あえてモダンな造りにはし
なかったのである。土地の良さを残しつつ、より向上していこうという姿
勢が伝わってきた。

地元を大切にしたお酒づくりは、“岩村醸造”という会社名にも表れてい
る。一般的に酒蔵の名前には、起業者の名字を起用することが多いようで
ある。しかし、“岩村”というのは、社長さんの名前ではなく、酒蔵があ
る町名である。あえて町名にした理由は、土地に存在する意義を意識した
ためである。真の意味での地酒づくりに力を入れているのである。社長さ
んは、常に地元の酒屋に何ができるのかということを、考えている。お酒
づくりに使用する米や水は、地元のものを使いたいという思いがある。そ
れでこそ、本当の意味での地酒になるのではないかと考えているのである。

「お酒づくりのやりがいは何ですか?」と尋ねると、すぐに社長はこのよ
うに答えた。「やはり、美味しいと言ってもらえること」と。お客様に美
味しいと言われることは、つくり手冥利に尽きると、社長は嬉しそうに笑
った。また、「このお酒を、大切な人に薦めたい・贈りたいと思ってもら
えるようになりたい」とも言っていた。目標としては、買う・贈る・もら
う喜びとして、ブランド価値を高めていくことを掲げている。

勘と経験を頼りに、純粋な気持ちでお酒づくりに取り組む杜氏と共に、良
いお酒をつくり続けていきたいという社長の強い思いが伝わってきた。


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