ただ便利なものを作るだけじゃない。
使い手に感動を与える商品を開発し続ける、川嶋工業株式会社。
込められた情熱を、名古屋大学大学院森川くん、愛知大学伊藤さんが探っ
てきました。
デスクワークの心強いお伴であるポテトチップス。油のべたつきが気にな
り、箸を使って食べた経験がある人も多いだろう。この悩みを解決するた
めに生み出された商品が『ポテトング』である。トングでありながら箸の
ようにも扱うことができ、そのまま机に置いても先端部が机に触れること
はない。強くつまんでしまっても心配無用。スナック菓子が割れてしまう
ことはない。シンプルな構造に隠された幾つもの仕掛けに気付いた人は、
もうスナック菓子を手掴みで食べていた頃には戻ることはできないだろう。
川嶋工業は、お客様が手に取って感動できる商品である『感動商品』を造
ることに責任を持ち、『ポテトング』のような独自性の高い商品を生み出
し続けている。台所シリーズの『子供用包丁』の開発では、ハンドル(柄)
が視覚的に最も分かり易い赤白のコントラストを使い、握る位置が一目で
分かるようにしている。また力のない子供でもスムーズに材料を切れるよ
うに大人が使う高級包丁と同じ材質を使用し、力を込めても手が傷付かな
いようにみねの形状が熟慮されている。細かい配慮が行き届いたこの『子
供用包丁』だからこそ、子供達の「私にもできた!」という成功体験をお
膳立てし、非常に安全な環境の中で「やればできる!」という自信をつけ
させることができる。
ここまでお客様のことを真剣に考えている川嶋工業だからこそ、川嶋工業
の商品を使用したお客様の満足度が非常に高いのも納得できる。インター
ネットの口コミサイトを見ても、どの商品にも賛辞の言葉が飛び交ってい
る。かくいう私も『ポテトング』を使用した次の日には、友人に対して如
何にこの商品が考えられて造られたものかを熱弁してしまったほどである。
さて川嶋工業がこれらの『感動商品』を次々と造り出せる理由は何だろう
か?その答えの一つは、川嶋工業と同様に『感動商品』を生み出すことに
情熱をかけるデザイナーやバイヤーとの縁を非常に大切にしていることか
ら推測することができる。川嶋工業には「ここにしか相談できない」とい
う飛び込み案件も多く、『ポテトング』も東急ハンズからどうにか商品化
したいと持ち込まれた企画だった。商品開発には相応のリスクが伴う。し
かし創業者のころから脈々と受け継がれてきた「人(他社)とは同じもの
は造れない。」というDNAを継承している川嶋工業だからこそ、飛び案件
にも一期一会の考えの下で真摯に対応し、お客様に感動を届けるヒントを
模索しているのだろう。
そんな川嶋工業でも商品開発に行き詰まる時がある。そんな時、川嶋社長
は社員にこう言葉をかけるそうだ。「一歩二歩前に進むのは難しいかもし
れない。だったらまず半歩行動してみてごらん」。芸人の付き人や単身で
海外へ売り込みに行くなど、様々なことにアクティブに挑戦されてきた川
嶋社長らしいアドバイスであり、私の胸にも深く突き刺さった言葉だった。
70%。なんとこの数字、A社の男性社員が仕事中にポテトチップスを「割り
箸」で食べている割合だ。ポテトチップスを食べてそのままの指でキーボ
ードやリモコンを触りたくない。あなたも生活の中で一度は思ったことが
あるだろう。このような小さなニーズに感動商品で答えていくのが川嶋工
業株式会社である。
「ポテトチップスを食べる時に便利なものを作って欲しい!」ある日、高
くアンテナを張っていた川嶋工業の営業マンが、この情報をキャッチした。
この情報の発信元は東急ハンズだった。その後、その営業マンは興奮気味
に真っ赤な顔をして話を持ちかけてきた。商品開発部でもない、製造部で
もない、川嶋社長に直接話をしたのだ。一般的に新しい製品を作るとなる
と製造の際の金型が必要となる。現在のラインとは別の特別製造ラインを
作らなければならない。特別ラインを作るという意思決定は当然社長がす
る。そのことをこの方は知っていたのだ。この方には「情熱」があった。
このニーズに答えた商品を絶対に作ってほしいという情熱だ。川嶋社長の
脳内では「そろばん」が弾かれる。本当に売れるのか?プラスチックの金
型は150~200万円はする。機械を導入して元がとれるのか…?しかしどん
なに裏でそろばんを弾いても、目の前には「作って欲しいという」人の情
熱があった。
川嶋社長は、「情熱に勝るものはない」という。もちろんコスト計算もあ
ってだが、営業マンの情熱と東急ハンズのバイヤーの「ここなら実現して
くれる」という川嶋工業への信頼があった。それが 川嶋社長の挑戦となっ
てポテトングという製品は誕生したのだ。川嶋社長は、ポテトングをお店
に置いて貰うために面白い営業方法をとる。まず、別の商談中に少し休憩
しましょうと、おもむろにポテトチップスを取り出す。営業先の方がポテ
トチップスを口に入れた瞬間がチャンスだ。川嶋社長はポテトングで食べ
る。「なにそれ?」と言われたらこちらの勝利だ。そして、ポテトングを
体験してもらう。最終的には「コレいくら?」と聞かれる。先に「このポ
テトングは○○円です。機能は…」という営業方法ではなく、先に体験し
てもらい商品の感動シーンを演出する。
こういった計算された営業方法は「そろばん」に当たるだろう。だが、そ
の根底には作り手・売り手の「情熱」がある。この情熱が伝わるから商品
が売れるのだ。この現象は単なるモノとカネの交換だけでなく、人と人の
縁が出来上がる瞬間なのだ。川嶋社長は、この縁をとても大事にしている。
こうして繋がっていく縁は、時が経ってもひょんなところから助けとなる
らしい。外との繋がりだけではない。社員のアイデアは積極的に採用して
いく。情熱が伝わった営業マンの成功体験は社内で共有をする。社内には、
「お客様に作り手の思いが伝わっているか、感動商品を開発できているか、
面倒くさがらず丁寧に良いものを作っているか」という営業・開発・製造
のスローガンが社員全員に見られるように掲げてある。
商品開発は、現状の先を想像して人と違うことをすることから始まる。お
客様に「わぁ!こんなの欲しかった!」という感動を届けたい。その情熱
が川嶋工業の感動商品になるのだ。